『整形美女』新潮文庫 2003年発売
今回は趣向を変えて作品からいくつかのキーワードを選んであれこれ考えてみましょう。
「カインとアベル」
本作品の下敷きとなった旧約聖書の物語。登場人物の名前がカインやアベル、天使ミカエルなどを表わしている。この「カインとアベル」というキーワードでグ
グル(グーグルで検索すること・・・らしい)と、聖書関連の様々なページがヒットします。ところが、そのいくつかを読んだだけでも物語に対する解釈の違い
や書き手のスタンス(キリスト教の内側からか、外部からか)の違いから、導きだされる教訓というか主旨が微妙に違っています。
さらには物語のどこに焦点を当てるかも大きな違いを生みます。カインとアベルを農耕作物文化と放牧肉乳文化の主導権争いという観点から見たり、信仰の在り
方や神に対するお付き合い?の仕方だったり・・・。だって、なぜか神はカインの貢ぎ物(農作物)には目もくれず、アベルの仔羊肉?を取るんですもん。神は
肉好きなのか。聖書が人類最初の殺人として描写しているのは、凄惨な石による撲殺でした。しかも兄弟殺し。動機は妬み嫉みあるいは世界を我が手にせんとす
る独占欲か。
ちなみにこの創成記の物語を元にした小説には、ジョン・スタインベッグの「エデンの東」やジェフリー・アーチャーの「ケインとアベル」がある。映画「エデ
ンの東」はジェームズ・ディーン主演エリア・カザン監督の名作(1955)。ジェフリー・アーチャーの小説もサム・ニールとピーター・ストラウス主演で
TV映画(1985年劇場未公開)になっていて、これが意外に良く出来ていて面白い。
「美醜の定義問題」
読者に投げかけられている身近な問題の一つ。美人とはどのような容姿を言うのか、醜いとはどのような容姿を言うのか。実は人によって時代によって、国や人
種・文化によって、世代によって違う基準がありますね。自分が美醜を判断する時の基準をきちんと説明せよと言われてそれが出来る人は多くないでしょう。美
人と言われている人をよくよく考えてみるとTVの露出が多くて、雑誌などでも美人と言われているから美人だと思う・・・などという情けない理由しかなかっ
たりしませんか?
「美容整形」
本作品が発表されたのは1999年ですが、それからわずか7年で日本の美容整形事情(主に世間の受け止め方)は劇的に変化しましたねえ。カリスマ美人美容
整形外科医などという人まで出てきています。じゃあ、この作品が古くなったかと言えばそんなことはなくて、むしろ技術的な問題に起因するリスクの啓発や手
術時の契約の際の問題点指摘、美容整形の宣伝等に対する問題点の指摘などは先駆的でありました。親からもらった体や顔にメスを入れて変えるのはうんぬんと
いう紋切り型の批判ではありませんし、よくある整形して人生がポジティブに変わってという単純なイケイケ物語でもありません。それにしても今や偽乳は当た
り前だし、ある意味昔は買えなかったものが今は金で買える時代でもあります。
「マイケル・ジャクソン」
作品とは直接関係ないんですが、整形となるとどうしても彼のことを考えてしまいます。
最近ますます顔が白くなって、あるんだかないんだか鼻は融解しそうで、ドクター・モローの島からやってきた踊る変態ゾンビ男と化しておりますね。別に悪口
じゃなくて、私はどちらかと言うと彼のファンなのですが、彼が変わろうとした理想の顔は何だったのかが今一つわからない。
「叶姉妹」
さて、この二人。どうどうとしています。最初の頃感じた違和感のようなものが、日に日になくなって今ではちょっとしたファンだったりします。何だかよくわ
からないけどプロ根性を感じます。しかし、あそこまで乳でかくしなくても良いんじゃないかなぁー。
以上、・・・って、本の紹介はどうしたぁ!
いやまあね、実を言うと本書はかなり哲学的で掘り下げようとすると、ヘーゲルやらカントやらヴィトゲンシュタインやらタカスくりにっくやら、でび夫人や
ら、ほしの某ぐらびあアイドルやら魑魅魍魎(おぉ、一発で変換した)が出てくるのですぅ。危ないあぶない。
バックナンバー
終業式/ツイラク&桃/よるねこ/サイケ
/私小説タイムストッパー 受難/ブスのくせに!/ハルカ・エイティ/ハルカ・エイティ2 ハルカ・エイティ3/ちがうもん/変奏曲/レンタル不倫/蕎麦屋の恋 ひと呼んでミツコ/整形美女/どうして結婚/コルセット/コルセット2 ツ、イ、ラ、ク(文庫版)/ああ正妻/桃/リアル・シンデレラ/昭和の犬/忍びの滋賀
|